2008-01-01から1年間の記事一覧

死相ただよう恋人たち 〜ドニー・ダーコ〜

『ドニー・ダーコ』みました。2001年、リチャード・ケリー監督。本編を観たあと特典映像の中の予告編を見ると、パラレル世界、時間の反転などということが宣伝文句になっていて、そういえばこの映画はSFでもあるのだと思い至った。でも私にとってはSFの部分…

没理想の現実を生きるプラスチックなソウル 〜無情の世界〜

阿部和重『無情の世界』読みました。三つの小説からなる作品集です。トライアングルズ他人の幸せのことばかりを考えてばかりいるが同時に、どうしようもなく一人よがりでパラノイアックな「先生」。青春学園ドラマの熱血教師のような意欲の空回り。「私」の…

滅びゆく知識人の自画像 〜アワーミュージック〜

2004年製作、ゴダールの『アワーミュージック』みました。ひどい。これは最低の映画です。またネガティブなことを書きます。いや、私も考えましたよ。何もブログにわざわざ気に入らなかった映画のことまで書くことはないのではないかと。実際、そういう立派…

犬はお巡りなのだから迷子にはならないはず 〜ABC戦争〜

阿部和重『ABC戦争』読みました。読んだのは二話追加の新潮文庫の方。冒頭で「わたし」は山形新幹線の中にいる。列車による移動、東北、戦争、ということから『吉里吉里人』のような小説を予期していると、話題はいきなりトイレの中の落書きのことになり、そ…

金持ちだって悩む! 〜天才マックスの世界〜

映画『天才マックスの世界』みました。以下、ネガティブな感情の炸裂による悪電波が発生するので注意!苦手。ウェス・アンダーソンは私は苦手。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』もそうだった。カラフルで豊かな町並み。立派な屋敷。きれいな女。白い肌に、…

動物の数だけ人生がある 〜上野公園〜

上野公園に行ってきました。ここは昔に一度来たことがあったかなかったかさえ記憶が曖昧で、とにかく具体的なことは何も覚えていないので、ショボショボ小雨が降ってはいましたが子供に返った気分で楽しめました。動物の方は、まあ新しい動物園に比べると全…

韓国の快進撃と日本の鎖国、築庭国家、それに『しわあせ』について

テレビも新聞もオリンピック一色の今日この頃だが、かく言う私もちらほらテレビで普段はまったく目にしない競技を眺めて楽しんでいる。特に思い入れのある競技もないので、たまたまテレビをつけたときにやっている試合を見るだけなのだが、そのなかで、とく…

パンチドランク・ラブ

ポール・トーマス・アンダーソン監督、2002年製作の映画『パンチドランク・ラブ』を観ました。!!!ネタばれ注意!!!ロフトで商売を営む青年実業家バリー。彼にはたくさんの姉がいて、姉たちになにか自分のことを言われるたびに「からかわれている」…

少女たちの「文学と悪」 〜小さな悪の華〜

アンテナにも入っているこの日記で紹介されていた『小さな悪の華』という映画を観ました。映画のさいごで主人公である二人の少女が三つの詩を朗読するんですが、最初に読まれる長い詩はジュール・ラフォルグ(Jules Laforgue, 1860-1887)の『哀れな若者の嘆…

清水公園と駄洒落の銀行名について

昨日は清水公園に行ってきましたのでレポートします。この広い公園の内部はいくつかのゾーンに分けられていて、フィールドアスレチックやアクアベンチャー(迷路+噴水)、ポニー牧場、花ファンタジア(植物園)などは有料になっています。最初に見たのが公…

皮肉はやめてベタにしてみました 〜スターシップ・トゥルーパーズ2〜

『スターシップ・トゥルーパーズ2』観ました。舞台はある暗い惑星。昆虫型の宇宙生物との戦いで、人類は劣勢に立たされている。この惑星でも歩兵たちが砂漠の中の砦に追いつめられる。前作(『スターシップ・トゥルーパーズ』)のような明るい青春の場面は…

阿部和重について 〜阿部和重対談集〜

『阿部和重対談集』読みました。いま一番自分が読んで面白いものを読んだという気がする。我が意を得た部分もあれば、目から鱗が落ちたという部分もあった。まあとにかく、阿部和重の小説はすべて読もうという気になりました。 ここで一つ、阿部和重について…

ダンサー空也

旧タイトル「市の聖!空也?」も気には入ってたんですけどね。ええとご存じかもしれませんが空也というのは平安中期に活躍した僧で、口から6体の阿弥陀仏を吐き出しているあの衝撃的な像で有名な人。 当時京都に流行した悪疫退散のため、上人自ら十一面観音…

お知らせ

このたび日記のコンセプトを再調整することにしました。具体的には、日記のタイトルを「市の聖!空也?」から「si vilaine fugue」(フランス語!)に変更します。発音は「シ・ヴィレンヌ・フュグ」、意味は「かくも無様な家出」とか「かくも不快なフーガ」…

おちゃめな太っちょ殺人鬼 〜バートン・フィンク〜

コーエン兄弟の『バートン・フィンク』観ました。1991年の映画。フィンクがポカンと口をあけた顔が『バス男』のナポレオン・ダイナマイトにそっくり!ホテルの部屋の壁にかけられた絵につながる最後の浜辺のシーンは、ロブ・グリエの映画やルネ・マグリット…

みんなUFOのせいだってことでいいかな 〜バーバー〜

2001年、コーエン兄弟による映画『バーバー』を観ました。白黒。ベートーベンのピアノソナタとビリー・ボブ・ソーントン演じるエドの無口さが印象的だった。しかし不思議な映画だ。後から考えなおしてみると、いろんな疑問が次から次へとわき出てくるのだ。…

散文的 〜ミステリアスセッティング〜

阿部和重『ミステリアスセッティング』読みました。これほど感情をかき回された小説はひさしぶり。「引き込まれる」って表現が生っちょろく感じるほど。はやく話の先を知りたくて、ページをめくる手に目が追いつかないほどだった。そんなに速くは読めないよ…

えっ、攻撃?さあ、どういうふうにやるんだろうねえ 〜プラスティック・ソウル〜

阿部和重『プラスティック・ソウル』読みました。最初、どこかアメリカの臭いがした。アシダ、イダ、ウエダ、エツダという記号のような名前にはポール・オースターの『幽霊たち』を連想したし、ところどころ村上春樹風の部分さえあると思った。でも読み進め…

今様の時代 〜常に恋するは〜

五味文彦著『梁塵秘抄のうたと絵』 (文春新書)のつづきです。今様は王や貴族に独占されていたものではなかった。それは庶民の生活にも密着したものだった。今様はもともと「遊女や京童らによって謡われ流行したものであって民間に流布していた歌謡である」。…

今様の時代 〜仏は常にいませども〜

五味文彦著『梁塵秘抄のうたと絵』 (文春新書)のつづきです。 仏は常にいませども 現ならぬぞあはれなる 人の音せぬ暁に ほのかに夢に見え給ふ これは『梁塵秘抄』を代表する歌の一つ。映画『桜の森の満開の下』の中で、山賊に切り取らせた人間の首(それも…

今様の時代 〜遊びをせんとや生まれけむ〜

五味文彦著『梁塵秘抄のうたと絵』 (文春新書)読みました。 中世は「歌の時代」といっていいほどに、歌が人を動かした時代であった。和歌があり、連歌があり、今様があり、朗詠があり、和讃あり、読経あり、声明あり、念仏あり。早歌があり、宴曲があり、謡…

アイロニックな映画 〜スターシップ・トゥルーパーズ〜

今さらですが、『スターシップ・トゥルーパーズ』みました。というか、評判につられてツタヤでDVD借りてみてみたら、これ前にすでにみてました。まあ私的にはよくある話。でもストーリーはほとんど覚えてなかったので楽しめた。前回みたときは「アメリカ万歳…

紋切り型からの脱出

自分の心身にぴったりと合った職を持たず、創造的な人間でありたいと願いながらもどこか自分を紋切り型ではないかと恐れている、そんな人物が阿部和重の小説にはよく出てくる。私のようなブロガーもまさにそんな一人なのだが。そんな自分に自信のない人間に…

アイロニックな小説 〜ニッポニアニッポン〜

道の上で干からびかけて瀕死のミミズたちに哀愁を感じるこの季節、みなさまはいかがおすごしでしょうか。さて、『グランド・フィナーレ』にひきつづき、阿部和重『ニッポニアニッポン』読みました。今回はちょっと趣向を変えて、29日の朝日新聞に載った斉藤…

「おまえはまだまだダメ」って言われちまって……

窓をあけっぱなしにして寝たら朝の四時すぎに鳥たちの暴力的なさえずりで目を覚まされてしまう今日このごろ、みなさまはいかがおすごしでしょうか。さいきん書道にハマっている。『すらすら筆ペン練習帳』をひととおりやってから、石川九楊先生の『書道入門…

阿部和重『グランド・フィナーレ』

[阿部和重の『グランド・フィナーレ』読みました。すごくうまい。阿部和重は人に勧められて最初に読んだ『インディヴィジュアル・プロジェクション』がピンとこなくて内心あなどっていたんだけど、『シンセミア』で大いに反省した。今回の本は芥川賞受賞作。…

電車の中で人を観察、そして、ゲシュタルト崩壊

電車の中で人の仕草を見るのが好きだ。特に完全に眠りこけているときと、人と会話しているときが狙い目。眠ってるときは言わずもがな、会話しているときも、相手との何層ものレベルにおける情報の交換に精一杯で周囲の人間にまで気が回らないから。目を閉じ…

夏は新宿御苑でクールビズでしょう

今日は新宿御苑に行ってきました。 新宿駅の南口から東へ。大塚家具の先の交差点を渡ってしばらく行くと新宿門があります。 そこから日本庭園の方へ。あじさいがまだ咲いてました。 ところによってはかなり鬱蒼とした森になってます。 日本庭園へ向かう道筋…

即断即決!ロボコップよりも逡巡しない男 〜捜索者〜

1956年製作、ジョン・フォード監督の『捜索者』みました。1868年。南北戦争の余塵さめやらぬテキサスで、「アメリカ連合国」の兵隊だったイーサンは弟一家が暮らす家に帰ってくる。ところが罠にはまって家を出ている隙にコマンチに弟一家を殺され、下の娘の…

こわい話 〜ベイトソン『精神の生態学』〜

グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学』より。 P夫妻は結婚して十八年ほどになるが、十六歳の息子は破瓜病の傾向があった。結婚生活は平穏とは言い難く、常に互いの敵意がむき出しになる状態である。しかし妻は庭いじりが大好きで、ある日曜の昼下がり、夫…