阿部和重『グランド・フィナーレ』

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阿部和重『グランド・フィナーレ』読みました。

すごくうまい。

阿部和重は人に勧められて最初に読んだ『インディヴィジュアル・プロジェクション』がピンとこなくて内心あなどっていたんだけど、『シンセミア』で大いに反省した。

今回の本は芥川賞受賞作。これぞ散文、これぞ小説!積み重ねていく言葉の力!

思わずこのブログの名前を「しびれふぐ」に変えちゃおうかと考えたほど!


以下、ストーリーの単なる要約です。これから小説の方を読もうという人は、以下を読んでしまうとネタばれにより死ぬほどがっかりすること請合いです。


グランド・フィナーレ』はカミュの『異邦人』のような二部構成。第一部では主人公の男が社会(、といっても友達のサークルなんだけど)の底辺に墜ちる。第二部で更正する。

第一部……主人公はペドフィリア(児童性愛者、ロリコン)。妻にばれて離婚され、愛する娘と切り離されるが、どうにかして娘と会おうとしている。クラブで友人たちと会い、そこでみんなにペドフィリアをばらされる。さらに次の日、泊まっているホテルまで好意を持っていた女友達がやってきて、尋問される。そこで主人公は以前つきあっていてセックスまでした女の子が、その後自殺したことを彼女の口から知らされる。

第二部……主人公は東北の田舎に帰り、母の文房具店で店番をしている。そこへ昔の友人である小学校の教師から、二人の女の子のやる芝居の監督をしてほしいと頼まれ、最後には承諾する。ところが二人はどうも自殺を計画しているらしいことを知る。主人公は二人を救おうとし、また自分も二人との出会いを通して救われる。

ジンジャーマンという会話するおもちゃがときどき口を挟んだり、主人公の質問に対してミスマッチな答えをしたりするのもいい。


『馬小屋の乙女』
神町にまで「しびれふぐ」という名前の幻の性具を買いにやってきたトーマス井口。だが、店で居合わせた四人の人物はみなグルだった……。


『新宿 ヨドバシカメラ

――先生?
――何だい?
――それで結局のところ、何を仰りたいのです?
――さあね。正直、わたしにも判らんよ。生憎とね!
――こう言ってよろしければ……。
――何だい?
――先生の太鼓腹はひどく雄弁そうに見えて……。
――それで?
――とても未来を見通せるような代物ではないわ!
――結構!上出来だ!

――先生、勝手な真似はよして。あたしの手捌きの邪魔をしないでほしいわ。
――おい、吃驚することを言い出すなよ。こちらはまだ施工の途中なんだから。
――先生こそ、何を仰るの。事業を受注したのはこのあたしなのよ。
――だが君の下請けはわたしなんだ。だから少しは大目に見てくれてもいいじゃないか。
――下請けのくせに、随分と非協力的なのね。
――仕方がないじゃないか。こいつはいわば本能的な自衛というやつなんだよ。


『20世紀』
SonyのCD-R商品に合わせてホームページ上で発表された作品とのこと。5つのデザインのテーマが与えられていて、物語が全体で一つなのに、章ごとにテーマにも対応しているのはさすがプロ。
神町を取材する「私」、二十歳の女性Sさん、老占い師、カメラ、写真の歴史、耳、映像の記録。