2009-01-01から1年間の記事一覧

マリア像の前で懺悔 〜フランドル〜

映画『フランドル』(2006年)を観た。 カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞した作品だそうだが、私には道徳的に破綻した、反吐が出るほど内向きの映画だとしか思えなかった。あらすじ陰気で貧しそうな農村の若者たち。バルブとデメステルは気軽にセックスを…

クンデラなど

最近読んだ本など。■小説の精神 ミラン・クンデラによる小説論。まさにヨーロッパの文化エリートの書。ヨーロッパ的な思考システム(特にその哲学)に捉えられると、それなしにものを考えることなど不可能に思えてくるのだが、少し離れて眺めてみると、それ…

やっぱヨーロッパがダメ

最近観た映画を二つ。■白いカラス 原題はHuman Stain。フィリップ・ロス原作。 二コール・キッドマンとアンソニー・ホプキンスが良かった。 人種差別、性的虐待、別れた夫のストーカー行為、大学の中の権力争いなどなど盛りだくさん。ちょっといろいろ盛り込…

バナナ共和国・ノーベル社会科学賞

サルコジ大統領の二男のジャン・サルコジが、まだ二十三歳の大学生であるにも関わらずラデファンス整備公団(EPAD)の総裁に選ばれそうだという話。 これでフランスもベルルスコーニのイタリアに続いて「バナナ共和国」の仲間入りだ! とはいえ、フランスの…

ヨーロッパの左翼が壊れつつある

さもありなん。景気悪化でも社会党の人気はがた落ち(NY Times) http://www.nytimes.com/2009/09/29/world/europe/29socialism.html?ex=1269921600&en=db22797e9d7d29a6&ei=5087&WT.mc_id=NYT-E-I-NYT-E-AT-0930-L14 より引用。 アメリカの保守派にはオバマ…

わたしの読書の複数

最近おもしろかったもの。■岡田利規『わたしたちに許された特別な時間の終わり』収録されている『三月の5日間』と『わたしの場所の複数』の二作品は、どちらもよかったけど自分は特に『わたしの場所の複数』にガツンとやられました。ようするにアルバイトで…

貴族と奴隷のカップルの話 〜ある子供〜

ダルデンヌ兄弟監督の映画『ある子供』をみました。ものすごく色々なことを考えさせられたという意味で、良い映画だったと思います。 ある荒廃した地方の町。ブリュノは引ったくりや物乞いをしながら暮らしている。小学校高学年くらいの子供と協力してひった…

私小説作家という風俗 〜IN〜

桐野夏生『IN』読みました。あらすじ 作家の鈴木タマキは編集者の阿部青司とかつて不倫をしていたが、すでに別れたつもりでいる。タマキは『淫』という小説を書きつつあり、その主人公は、緑川未来男という作家が書いた『無垢人』という小説の中に登場する「…

未来の見えない話 〜百万円と苦虫女〜

タナダユキ監督、蒼井優主演『百万円と苦虫女』みました。とても面白かった。蒼井優はすばらしい!あらすじ佐藤鈴子は短大を卒業したが就職できず、アルバイトをしながら実家で暮らしている。アルバイトの同僚の女に誘われてルーム・シェアをすることになる…

良心的アメリカ人の諦観 〜スローターハウス5〜

カート・ヴォネガット・ジュニア『スローターハウス5』(一九六九年)読みました。面白かった。主人公のビリーは戦争中の一九四四年、最初の時間内浮遊現象を経験する。過去や未来のあちこちに時間が飛び、いきなり子供になったり、一九六五年にとんだりして…

アメリカ的作家の誕生 〜ガープの世界〜

ジョン・アーヴィングの『ガープの世界』読みました。とても面白くまた勉強になる小説だった。とにかく第一章『ボストン・マーシィ』がすばらしい。読みながら笑い、泣いた。そのあらすじ ジェニー・ガープは裕福な家庭に生まれたが、兄たちに勧められた大学…

動物・バイク・戦争 〜熊を放つ〜

ジョン・アーヴィングの小説『熊を放つ』(1968年)を読みました。村上春樹による訳です。とても面白かった。あらすじウィーンの学生であるジギーとグラフは金を出し合ってオートバイを買い、旅に出る。旅先の村の旅館でジギーが酔っ払った牛乳配達人を相手…

この映画化はどうよ 〜シャイニング〜

スティーブン・キングの小説『シャイニング』を読んでからそのキューブリックによる映画化をみました。スティーブン・キングによる小説の方はやっぱりすごい。文庫版では厚い上下二冊本なのに、どんどん引き込まれて一気に読んでしまう。映画の方は正直がっ…

ベラボーにたくましい人々 〜箆棒な人々〜

竹熊健太郎著『篦棒な人々 戦後サブカルチャー偉人伝』読みました。ベラボーに面白かった。 康芳夫(マルチプロデューサー、虚業家 1937年生まれ) 石原豪人(挿絵画家、画怪人 1923年生まれ) 川内康範(月光仮面原作者、生涯助ッ人 1920年生まれ) 糸井貫…

力の関係・古いものと新しいもの 〜受取人不明〜

キム・ギドク監督の受取人不明(2001年)をみました。毎回ながら、やっぱりすばらしい。70年代、米軍基地のある田舎の町を 混血児チャングク(ヤン・ドングン) 女子高校生ウノク(パン・ミンジョン) 似顔絵屋の見習いチフム(キム・ヨンミン) の三人を…

捨て身のパフォーマンスが死刑囚を救う 〜ブレス〜

キム・ギドク監督の『ブレス』(2007年)みました。すばらしい。キム・ギドク映画はどれもみなそれぞれに完璧だからすごい。あらすじ小学生ぐらいの娘と夫婦の三人家族。夫は作曲家で、浮気をしている。妻のヨンは家に閉じこもって素焼きの像ばかりつくって…

むかつく作家のむかつく小説 〜長いお別れ〜

レイモンド・チャンドラーの小説『長いお別れ』(1954年)を読みました。鼻持ちならない小説。!ネタばれ注意!長い小説なのでなんとなくごまかされてしまいそうになるけれど、落ち着いて考えてみるとこれはとても変な、はっきり言えば無理のあるストーリー…

過ぎ去った時間自体の美しさ 〜シン・レッド・ライン〜

テレンス・マリック監督作品(1998年)シン・レッド・ラインみました。ガダルカナル島でのアメリカ軍と日本軍の激しい戦闘とその前後を描く。技術的には。 モノローグ。 美しい映像。物語をとりまく圧倒的な自然。人間の営みの意味が相対化される。 昼間の撮…

それでも妹は気楽に生きていく 〜天国の日々〜

テレンス・マリック監督の『天国の日々』(1978年)観ました。よかった。あらすじ1916年。ビリー(リチャード・ギア)とその妹リンダ、ビリーの恋人アビー(ブルック・アダムス)は三人で暮らしている。ビリーはシカゴの工場で働くが、監督の男と喧嘩してクビ…

取るに足らない死・色即是空・意味の崩壊 〜地獄の逃避行〜

テレンス・マリックの監督デビュー作品地獄の逃避行 badlands(1973年)観ました。とても面白かった。1958年にネブラスカ州で起きた実際の事件をもとにしている。あらすじ(ネタばれ注意!)チャーリー・シーン演じるキットはゴミ集めの仕事をしている。彼は…

初恋の呪縛からの解放 〜ニュー・ワールド〜

テレンス・マリック監督の映画『ニュー・ワールド』みました。ポカホンタスによる、"Mother" という呼びかけから始まる独白が印象的。!以下はあらすじです。ネタばれ注意!17世紀の初め。アメリカのヴァージニアにイギリスから入植者たちが船でやってくる。…

ストレートな物語 〜アイ・アム・レジェンド〜

リチャード・マシスンの1954年の小説『アイ・アム・レジェンド 』読みました。!ネタばれ注意!謎の病気のために人類がみな死ぬか吸血鬼状態になり、一人だけ残った男が吸血鬼たちと戦う。 文体はとてもストレートで、ほとんど素人っぽく思える部分も多い。…

クセのある探偵 〜マルタの鷹〜

ダシール・ハメットの『マルタの鷹』(1929年)読みました。電車の中で読んでたらおもわず駅を乗り過ごしてしまったほど面白かった。簡潔で正確な人物描写。作家自身が実際にピンカートン探偵社で働いていただけあって、主人公である探偵スペードの行動の描…

アメリカ文学恐るべし! 〜郵便配達夫はいつも二度ベルを鳴らす〜

ジェームズ・M・ケインの郵便配達夫はいつも二度ベルを鳴らす読みました。すばらしい名作。おすすめ。 明日の夜、もしあたしが戻ってきたら、たくさんしてあげるわ、フランク。素敵なキスを。お酒臭いキスじゃなく、夢いっぱいのキスを。死のキスじゃなく、…

よくぞここまで 〜ローズ・イン・タイドランド〜

テリー・ギリアム監督『ローズ・イン・タイドランド』みました。とにかく主演の女の子がかわいくっていっちゃってて魅力的。ちょっとブリリアント・グリーンの川瀬智子みたい。岡崎京子のマンガに出てくる「妹」にもそっくり。 でも筋書きはとんでもないです。…

探偵はつらいよ 〜天使に見捨てられた夜〜

桐野夏生『天使に見捨てられた夜』読みました。桐野夏生の小説では、しばしば主人公の女性がつらい経験を経てパワーアップし、新たな人生へと出発する準備が整ったところで小説が終わります。『OUT』や『柔らかな頬』、『グロテスク』、『魂萌え!』などはみ…

教訓は東京一極集中?弱肉強食? 〜ゆれる〜

『ゆれる』みました。田舎の道沿いにある古びたガソリンスタンド。兄・稔は父親とともにそこで働き続けている。毎日同じことの繰り返し。色あせたユニフォームを着て、客にはぺこぺこと頭を下げ、朝から晩まで働き、母親が亡くなって男所帯となった家では自…

ラジカルな運命論者のなれの果て 〜大菩薩峠〜

『大菩薩峠』三部作(1960〜1961年)みました。机竜之介という虚無的な剣士の物語。音無の構えという剣術を使い決してやぶれたことがない達人なのだが、その心は物語の最初から闇の中にある。辻斬りをして何の咎もない人々を殺し、奉納試合では相手の文之丞…

老境から始まる主婦の戦い 〜魂萌え!〜

桐野夏生の『魂萌え !』読みました。すごく面白かった。風邪で寝込んでいる間に読んだ。一度読み始めると止まらない。夫を突然の心臓麻痺で亡くした敏子は、夫に十年来の愛人がいたことを知る。夫の死をきっかけに今まで知らなかった世界が開け、新たな戦い…

そして子供だけが残った 〜鰐〜

キム・ギドク監督の『鰐』(1996)みました。 すごい。面白かった。キム・ギドク監督ってやっぱ天才だと思った。世界中の映画から印象に残るシーンを集めてきて、もちろん全体としてもオリジナルで筋の通った面白い映画を作る。手抜きしたとか面倒くさがったと…