ラジカルな運命論者のなれの果て 〜大菩薩峠〜

『大菩薩峠』三部作(1960〜1961年)みました。

机竜之介という虚無的な剣士の物語。音無の構えという剣術を使い決してやぶれたことがない達人なのだが、その心は物語の最初から闇の中にある。辻斬りをして何の咎もない人々を殺し、奉納試合では相手の文之丞を殺し、その内縁の妻お浜を犯して江戸へ逃げ、子供ができる。だがその生活は闇に覆われたかのように暗くて貧しい。文之丞の弟の兵馬にかたきとして追われ、お浜に負けてくれと頼まれるが竜之介は断る。するとお浜は竜之介を刺そうとして逆に斬り殺される。
竜之介は放浪の旅に出る。行く先々でお浜に似た女に出会い、助けられる。しかし女たちとはみなはぐれ、不幸になって行くが竜之介は女に固執して助けようとはしない。「縁がなかったのだ」で終わり。やがて天誅組に入って幕府の軍に追いつめられ、爆弾で竜之介は両目を失明する。
兵馬と何度も出会っては辛くも難を逃れ、行く先々で用心棒として雇われて人を殺し続ける。「今さら信心をしても落ちる業でもあるまい」「神や仏などいるかどうか知らん」「俺は頼まれて斬るのではない。斬りたいから斬るのだ」
最後は自分が過去に殺してきた人間たちの幻影に怯え、どこかで生きているはずの息子の名を呼びながら洪水の濁流に流されていく。