映画

女性にとっての初恋というもの 〜パーマネント野ばら〜

シネセゾン渋谷で『パーマネント野ばら』を観てきた。すばらしい名作だと思う。原作は西原理恵子、監督は吉田大八。泣いた。電車の中で映画のシーンを思い出し、また泣いた。 ★以下、ネタばれ注意です。この映画を観ようと思っている方は、まず映画を観てく…

自分の居場所はない世界 〜崖の上のポニョ〜

テレビでやってたので『崖の上のポニョ』を観ました。どうもいけてない。そのいけてない感がどこからくるかというと、物語の舞台と物語のあいだで現実感のレベルのギャップがあまりにも大きいからではないか、という結論に達する。登場人物は子供も大人も含…

マリア像の前で懺悔 〜フランドル〜

映画『フランドル』(2006年)を観た。 カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞した作品だそうだが、私には道徳的に破綻した、反吐が出るほど内向きの映画だとしか思えなかった。あらすじ陰気で貧しそうな農村の若者たち。バルブとデメステルは気軽にセックスを…

クンデラなど

最近読んだ本など。■小説の精神 ミラン・クンデラによる小説論。まさにヨーロッパの文化エリートの書。ヨーロッパ的な思考システム(特にその哲学)に捉えられると、それなしにものを考えることなど不可能に思えてくるのだが、少し離れて眺めてみると、それ…

やっぱヨーロッパがダメ

最近観た映画を二つ。■白いカラス 原題はHuman Stain。フィリップ・ロス原作。 二コール・キッドマンとアンソニー・ホプキンスが良かった。 人種差別、性的虐待、別れた夫のストーカー行為、大学の中の権力争いなどなど盛りだくさん。ちょっといろいろ盛り込…

わたしの読書の複数

最近おもしろかったもの。■岡田利規『わたしたちに許された特別な時間の終わり』収録されている『三月の5日間』と『わたしの場所の複数』の二作品は、どちらもよかったけど自分は特に『わたしの場所の複数』にガツンとやられました。ようするにアルバイトで…

貴族と奴隷のカップルの話 〜ある子供〜

ダルデンヌ兄弟監督の映画『ある子供』をみました。ものすごく色々なことを考えさせられたという意味で、良い映画だったと思います。 ある荒廃した地方の町。ブリュノは引ったくりや物乞いをしながら暮らしている。小学校高学年くらいの子供と協力してひった…

未来の見えない話 〜百万円と苦虫女〜

タナダユキ監督、蒼井優主演『百万円と苦虫女』みました。とても面白かった。蒼井優はすばらしい!あらすじ佐藤鈴子は短大を卒業したが就職できず、アルバイトをしながら実家で暮らしている。アルバイトの同僚の女に誘われてルーム・シェアをすることになる…

この映画化はどうよ 〜シャイニング〜

スティーブン・キングの小説『シャイニング』を読んでからそのキューブリックによる映画化をみました。スティーブン・キングによる小説の方はやっぱりすごい。文庫版では厚い上下二冊本なのに、どんどん引き込まれて一気に読んでしまう。映画の方は正直がっ…

力の関係・古いものと新しいもの 〜受取人不明〜

キム・ギドク監督の受取人不明(2001年)をみました。毎回ながら、やっぱりすばらしい。70年代、米軍基地のある田舎の町を 混血児チャングク(ヤン・ドングン) 女子高校生ウノク(パン・ミンジョン) 似顔絵屋の見習いチフム(キム・ヨンミン) の三人を…

捨て身のパフォーマンスが死刑囚を救う 〜ブレス〜

キム・ギドク監督の『ブレス』(2007年)みました。すばらしい。キム・ギドク映画はどれもみなそれぞれに完璧だからすごい。あらすじ小学生ぐらいの娘と夫婦の三人家族。夫は作曲家で、浮気をしている。妻のヨンは家に閉じこもって素焼きの像ばかりつくって…

過ぎ去った時間自体の美しさ 〜シン・レッド・ライン〜

テレンス・マリック監督作品(1998年)シン・レッド・ラインみました。ガダルカナル島でのアメリカ軍と日本軍の激しい戦闘とその前後を描く。技術的には。 モノローグ。 美しい映像。物語をとりまく圧倒的な自然。人間の営みの意味が相対化される。 昼間の撮…

それでも妹は気楽に生きていく 〜天国の日々〜

テレンス・マリック監督の『天国の日々』(1978年)観ました。よかった。あらすじ1916年。ビリー(リチャード・ギア)とその妹リンダ、ビリーの恋人アビー(ブルック・アダムス)は三人で暮らしている。ビリーはシカゴの工場で働くが、監督の男と喧嘩してクビ…

取るに足らない死・色即是空・意味の崩壊 〜地獄の逃避行〜

テレンス・マリックの監督デビュー作品地獄の逃避行 badlands(1973年)観ました。とても面白かった。1958年にネブラスカ州で起きた実際の事件をもとにしている。あらすじ(ネタばれ注意!)チャーリー・シーン演じるキットはゴミ集めの仕事をしている。彼は…

初恋の呪縛からの解放 〜ニュー・ワールド〜

テレンス・マリック監督の映画『ニュー・ワールド』みました。ポカホンタスによる、"Mother" という呼びかけから始まる独白が印象的。!以下はあらすじです。ネタばれ注意!17世紀の初め。アメリカのヴァージニアにイギリスから入植者たちが船でやってくる。…

よくぞここまで 〜ローズ・イン・タイドランド〜

テリー・ギリアム監督『ローズ・イン・タイドランド』みました。とにかく主演の女の子がかわいくっていっちゃってて魅力的。ちょっとブリリアント・グリーンの川瀬智子みたい。岡崎京子のマンガに出てくる「妹」にもそっくり。 でも筋書きはとんでもないです。…

教訓は東京一極集中?弱肉強食? 〜ゆれる〜

『ゆれる』みました。田舎の道沿いにある古びたガソリンスタンド。兄・稔は父親とともにそこで働き続けている。毎日同じことの繰り返し。色あせたユニフォームを着て、客にはぺこぺこと頭を下げ、朝から晩まで働き、母親が亡くなって男所帯となった家では自…

ラジカルな運命論者のなれの果て 〜大菩薩峠〜

『大菩薩峠』三部作(1960〜1961年)みました。机竜之介という虚無的な剣士の物語。音無の構えという剣術を使い決してやぶれたことがない達人なのだが、その心は物語の最初から闇の中にある。辻斬りをして何の咎もない人々を殺し、奉納試合では相手の文之丞…

そして子供だけが残った 〜鰐〜

キム・ギドク監督の『鰐』(1996)みました。 すごい。面白かった。キム・ギドク監督ってやっぱ天才だと思った。世界中の映画から印象に残るシーンを集めてきて、もちろん全体としてもオリジナルで筋の通った面白い映画を作る。手抜きしたとか面倒くさがったと…

次回作はホーマー主演! 〜ダークナイト〜

バットマンシリーズの最新作『ダークナイト』みました。この映画については良い前評判なども聞いていてとても期待していただけに、正直ちょっとがっかりだった。 致命的なのはジョーカーが怖くないってこと!映画の最初のうちだけちょっと怖くてワクワクした…

人生の喜怒哀楽と永劫回帰の物語 〜春夏秋冬そして春〜

キム・ギドク監督『春夏秋冬そして春』(2003年)みました。あらすじ春 ある湖の真ん中に浮かぶ寺。湖の周囲は高い山に囲まれている。寺と周囲の陸地の間はボートで行き来するようになっている。陸地側の船着き場には一本の大樹と、仁王が描かれた両開きの木…

進化する物語 〜サマリア〜

キム・ギドク監督の『サマリア』みました。すばらしい。やっぱりこの監督は天才だと思った。あらすじ女子高生のヨジンは刑事の父ヨンギと二人暮らし。ヨジンは同級生のチェヨンとヨーロッパ旅行の金を貯めるために援助交際をしている。ヨジンは携帯電話で客…

エロスの昇華・男女の協同作業 〜サロメ〜

カルロス・サウラ監督のフラメンコ映画『サロメ』みました。すばらしかった。あらかじめ決められた所作を正確にこなすことから生まれる感動。自在に変化するテンポ、緩急のコントラスト、コントロールされた動き。ここまでは能と同じ。だが、もっと自由で多…

人の強い思いが時空を歪ませる 〜悪い男〜

キム・ギドク監督『悪い男』(2001年)みました。あらすじ娼家街を取り仕切るヤクザのハンギは無口で暴力的な男。街で見かけた女子大生のソナに目をつけた彼は、ソナの恋人の前で強引にソナの唇を奪い、男たちから袋叩きにあい、ソナには唾を吐きかけら…

ある近代の黎明 〜黄色い大地〜

陳凱歌(チェン・カイコー)監督『黄色い大地』(1984年)みました。スゴイ。圧倒されました。まさにいま消え去りつつある瞬間の古い農村社会、残酷でありまた美しくもある小世界を描いた、完璧な映画だと思います。あらすじ1939年の初春、陝西省北部の農村…

貧しさの中で悪が不条理にも勝利する映画 〜忘れられた人々〜

1950年公開の映画、ブニュエルの『忘れられた人々』みました。メキシコのスラムで生きる人々を描いた、いわゆる「リアリズム」映画。主人公のペドロはスラムに住む子供で、学校にも仕事にも行かずに近所の悪ガキたちとつき合っている。そこに感化院を脱走し…

終わりよければすべてよし 〜キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン〜

スピルバーグ監督の『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』みました。実際にあった驚くべき詐欺事件を元にした映画。レオナルド・ディカプリオ演じるフランク・W・アバグネイルJrの父(クリストファー・ウォーケン)は山っ気のある男で、文房具店を営んで…

被害者づらする暗殺者 〜ミュンヘン〜

スピルバーグ監督『ミュンヘン』みました。!!!ネタばれ注意!!!ミュンヘン・オリンピックのイスラエル選手11人をパレスチナ武装組織「黒い九月」が殺したテロ事件を元にした映画。イスラエル政府はメイア首相の命令下でアヴナーをリーダーとする暗殺…

あと一歩でホラーから逸脱しそうなホラー映画 〜LOFT〜

黒沢清監督の『LOFT』みました。こちらで予期する展開や映画表現の手法を不意に逸脱する部分がいくつかあって、それが面白かった。例えば、 中谷美紀と豊川悦司が二人で土を掘り返して、結局何も出なかったあとの不自然な流れ。いきなり抱き合って、わざ…

正座して観賞するSFアクション 〜イーオン・フラックス〜

シャーリーズ・セロン主演『イーオン・フラックス』みました。シャーリーズ・セロン、相変わらずがんばってます。この映画で彼女が演じる役はたしかにセクシーな女戦士なんですが、どこか、みているこちらが思わず居住まいを正してしまうようなセクシーさ&…