捨て身のパフォーマンスが死刑囚を救う 〜ブレス〜

キム・ギドク監督の『ブレス』(2007年)みました。すばらしい。キム・ギドク映画はどれもみなそれぞれに完璧だからすごい。

あらすじ

小学生ぐらいの娘と夫婦の三人家族。夫は作曲家で、浮気をしている。妻のヨンは家に閉じこもって素焼きの像ばかりつくっている。
ヨンがテレビを見ているとハンソン刑務所の死刑囚チャン・ジンの自殺未遂のニュースが流れる。チャンはそれまでに何度か自殺未遂をしている。
ヨンは車の中で夫の愛人の髪飾りを見つけ、それを自分の頭につける。夫がそれを見つけてもみ合いになる。ヨンは髪飾りを投げ捨て、家の外に出る。
ヨンはタクシーを拾い、衝動的にハンソン刑務所へと向かう。面会を申し込み、一度は断られるが、ヨンの様子を監視カメラで見ていた保安部長がOKを出す。
1回目の面会。ヨンは唐突に子供のころの臨死体験を話す。プールに潜っていられる長さを友達と競っていて、三分間ほどヨンは死んでいた。チャンはヨンの髪の毛を一本、牢屋に持ち帰る。
二回目の面会。ヨンは春の服装をして出かける。刑務所の一室でヨンはチャンと会う。その部屋にはヨンがあらかじめ春の風景の写真を壁に張り、花瓶と窓際には春の花、そしてラジカセから流れる曲にあわせてヨンは春の歌を歌う。歌が終わると二人はテーブルに向かい合わせに座り、ヨンが子供のころの話をする。チャンはヨンにキスしようとするが、その直前に、すべてを監視カメラで見ていた管理部長が面会の終わりを告げるブザーのボタンを押す。
三回目の面会。ヨンは冬の最中なのに夏の服装をして出かけ、近所の人に頭がおかしいと陰口を叩かれる。同じ部屋で、やはり夏の海の風景写真を壁に張り、浮き輪と扇風機を用意した部屋でヨンはチャンと会い、夏の歌を歌う。それからヨンは子供のころの臨死体験をその場で再体験する。二人は最後にキスを交わす。
四回目の面会。壁には秋の紅葉した山の風景。秋の歌。歌のあと、ヨンが「ここは?山。むかしここであなたと同じように一人で紅葉を見ている男がいた。私は彼を愛しました」という。それからヨンはチャンの手錠をした腕を自分の首に回し、二人は激しくキスをしながら抱き合う。管理部長の押したブザーが鳴り、刑務員が二人を引き離す。
チャンのいる牢屋の中には四人の囚人がいる。そのうち一人はチャンに同性愛的な感情を抱いている。その男はチャンにたびたび面会に訪れるようになったヨンに嫉妬する。毎回ヨンがチャンに渡す写真を、他の三人が共謀してチャンから取り上げて、破いて食べようとしたり、隠したりする。中の一人はヨンの写真を見ながら壁にヨンの絵をヘラのようなもので刻みつける。それを見ていたチャンはヘラを取り上げて自分の首に刺すがまた自殺未遂に終わる。病院から帰ってきてチャンに、絵を描く男がヨンの絵をチャンに見せる。
一方、ヨンの夫はヨンの乗ったタクシーを尾行して、妻がハンソン刑務所で死刑囚に会っていることを突き止める。夫は妻の行動が気になって、愛人とも別れ、妻にも刑務所にはもう行くなというが、妻は一度は行くのをやめるが、最後に一度だけまたチャンに面会しに行く。
ヨンが歩いて家を出ると、夫が娘も乗せた車でヨンを刑務所まで送る。そして刑務所の前で雪遊びをしながらヨンを待つ。ヨンは飾り付けをしないままの部屋でチャンと会い、服を脱ぎ、チャンの服を脱がせて抱き合う。愛を交わしながらヨンはチャンの鼻を指で塞ぎ、(子供のころ自分が三分間だけ死んでいたように)口を自分の口で塞いでチャンを窒息させようとするが、チャンが最後に抵抗して二人は離れる。
ヨンは家族三人で車に乗って家に変える。車の中で、「雪が降る」の歌(韓国語で)を歌う。独房では、寝ているチャンを他の三人が押さえつけ、首を締めつけてゆっくりと殺す。


チャンは死刑をとても恐れているということがニュースの中で説明されていた。ヨンも三人の囚人たちも、チャンが幸福に死んでいけるように工夫を凝らしたということになるのだろうか。死刑台で死んでいくよりも、愛する者の腕の中で死ぬほうがいいにはちがいない。愛される死刑囚と、彼への捨て身の献身を通して家族への愛を取り戻していく女の物語。やり手で妻には無神経な夫は、最後にはいい人になる。
あと、夜中に妻がタクシーに乗って刑務所へ向かう何気ないシーンがとても印象的だった。ヴィム・ヴェンダースの『まわり道』に出てくるアウトバーンのシーンみたい。