2008-01-01から1年間の記事一覧

進化する物語 〜サマリア〜

キム・ギドク監督の『サマリア』みました。すばらしい。やっぱりこの監督は天才だと思った。あらすじ女子高生のヨジンは刑事の父ヨンギと二人暮らし。ヨジンは同級生のチェヨンとヨーロッパ旅行の金を貯めるために援助交際をしている。ヨジンは携帯電話で客…

エロスの昇華・男女の協同作業 〜サロメ〜

カルロス・サウラ監督のフラメンコ映画『サロメ』みました。すばらしかった。あらかじめ決められた所作を正確にこなすことから生まれる感動。自在に変化するテンポ、緩急のコントラスト、コントロールされた動き。ここまでは能と同じ。だが、もっと自由で多…

人の強い思いが時空を歪ませる 〜悪い男〜

キム・ギドク監督『悪い男』(2001年)みました。あらすじ娼家街を取り仕切るヤクザのハンギは無口で暴力的な男。街で見かけた女子大生のソナに目をつけた彼は、ソナの恋人の前で強引にソナの唇を奪い、男たちから袋叩きにあい、ソナには唾を吐きかけら…

ある近代の黎明 〜黄色い大地〜

陳凱歌(チェン・カイコー)監督『黄色い大地』(1984年)みました。スゴイ。圧倒されました。まさにいま消え去りつつある瞬間の古い農村社会、残酷でありまた美しくもある小世界を描いた、完璧な映画だと思います。あらすじ1939年の初春、陝西省北部の農村…

複数の視点、そして美人という怪物 〜グロテスク〜

桐野夏生『グロテスク』読みました。あいかわらずものすごい吸引力!ダイソン掃除機も目じゃないです。 主人公の「わたし」は日本人の母とスイス人の父のあいだに生まれたハーフで、ユリコという美しい妹がいる。「わたし」は名門として名高いQ女子高に入学…

貧しさの中で悪が不条理にも勝利する映画 〜忘れられた人々〜

1950年公開の映画、ブニュエルの『忘れられた人々』みました。メキシコのスラムで生きる人々を描いた、いわゆる「リアリズム」映画。主人公のペドロはスラムに住む子供で、学校にも仕事にも行かずに近所の悪ガキたちとつき合っている。そこに感化院を脱走し…

終わりよければすべてよし 〜キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン〜

スピルバーグ監督の『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』みました。実際にあった驚くべき詐欺事件を元にした映画。レオナルド・ディカプリオ演じるフランク・W・アバグネイルJrの父(クリストファー・ウォーケン)は山っ気のある男で、文房具店を営んで…

被害者づらする暗殺者 〜ミュンヘン〜

スピルバーグ監督『ミュンヘン』みました。!!!ネタばれ注意!!!ミュンヘン・オリンピックのイスラエル選手11人をパレスチナ武装組織「黒い九月」が殺したテロ事件を元にした映画。イスラエル政府はメイア首相の命令下でアヴナーをリーダーとする暗殺…

あと一歩でホラーから逸脱しそうなホラー映画 〜LOFT〜

黒沢清監督の『LOFT』みました。こちらで予期する展開や映画表現の手法を不意に逸脱する部分がいくつかあって、それが面白かった。例えば、 中谷美紀と豊川悦司が二人で土を掘り返して、結局何も出なかったあとの不自然な流れ。いきなり抱き合って、わざ…

妄想を核にして真相が見えてくる 〜残虐記〜

桐野夏生『残虐記』読みました。いや〜あいかわらず読ませます。どんどん先を読みたくなる。そして読んでいると脳内物質が分泌される。我を忘れ、文体のことなどもすっかり忘れて物語にどっぷり入れ込んでしまう。おそろしや。!!!以下、ネタばれ注意!!…

正座して観賞するSFアクション 〜イーオン・フラックス〜

シャーリーズ・セロン主演『イーオン・フラックス』みました。シャーリーズ・セロン、相変わらずがんばってます。この映画で彼女が演じる役はたしかにセクシーな女戦士なんですが、どこか、みているこちらが思わず居住まいを正してしまうようなセクシーさ&…

「物それ自体」の美しさに酔う 〜エレファント〜

ガス・ヴァン・サントの『エレファント』みました。コロンバインの銃乱射事件にインスパイアされた映画。オレゴン州ポートランドの高校の中で、何人かの生徒たちについて順番に、長い廊下や教室や部室やグラウンドを行ったり来たりするのをカメラが延々と追…

条虫の腹の中、真実真正を求める俺 〜宿屋めぐり〜

町田康の小説『宿屋めぐり』読みました。面白かった!この作家の小説を決定的に特徴づける「音響効果」のユニークさ、それに、無意味なようでなぜか分かってしまうしかし説明しろと言われても無理な言葉づかいの絶妙さは、本作でも健在です。!!!以下、ネ…

カッチャウ!カッチャウ! 〜カーズ〜

ピクサー製作の『カーズ』みました。車だけのアメリカを描いた、とにかく楽しいアニメ映画。!!!ネタばれ注意!!!主人公のライトニング・マックィーンはピストン・カップをあらそう自動車レースの期待の新人。ライバルはベテランの「キング」と性格の悪…

ビバ、ハリウッド! 〜M:i:III〜

『M:i:III』みました。変装、してみたいよね。この映画のトム・クルーズみたいに。チェコ人のバックパッカーとか。バチカンの神父とか。作業員とか。あと、個人的には初老の金持ちの男に化けてみたいね。昭和を思わせるかちっとした暗い色のコートに、首には…

桐野夏生の『夜の果てへの旅』 〜柔らかな頬〜

桐野夏生『柔らかな頬』読みました。すごい!『OUT』もよかったけど、こっちの方がぶっとんでる!北海道の家族の元を飛び出し東京へ出てきたカスミ。やがて製版会社で働きだした彼女は社長の森脇と結婚するが、会社の客である広告代理店の石山と浮気をする。…

退屈な自殺 〜ラストデイズ〜

ガス・ヴァン・サント監督『ラストデイズ』みました。退屈。「薬物中毒のロック・スターの自殺」と要約される、そのままの、またそれだけの内容。スターの孤独、バンドの人間関係、豪邸の荒れ加減、美男子の金髪白人若者が汚い身なりをして自然の中をうろつ…

「ドラマ」の拒否 〜パラノイドパーク〜

ガス・ヴァン・サント監督『パラノイドパーク』みました。あらすじ(ネタばれ注意)アレックスはスケートボーダーたちが集まるパラノイドパークで知り合った男と夜、列車に飛び乗る遊びをやりにいき、警備員に見つかる。警備員が懐中電灯で殴ってくるのにア…

アメリカ風堕落 〜マグノリア〜

ポ−ル・トーマス・アンダーソン監督の『マグノリア』みました。最初の三分の一はよかった。どんどんと緊張が高まっていくのに比例して、クライマックスへの期待も高まっていく。ところがそのクライマックスはなんだか散発的にやってきて、もうすぐ映画の終わ…

夫の価値が分からない妻 〜ヒストリー・オブ・バイオレンス〜

デイヴィッド・クローネンバーグ『ヒストリー・オブ・バイオレンス』みました。クローネンバーグ監督というから『ヴィデオドローム』や『裸のランチ』や『クラッシュ』や『イグジステンツ』のような、主人公が迷路のような悪夢に迷い込んでいって、変な形の…

現実ってホントにみにくくてつらくてイヤだわ 〜アンボス・ムンドス〜

桐野夏生『アンボス・ムンドス』読みました。短編集。スティーブン・キングばりのホラーあるいはサイコ・サスペンス。憎しみ、裏切り、幻滅などの負の感情に焦点を当てた物語たち。辛い現実を想像で乗り越えようとする人間が現実に裏切られるショック。『毒…

石油にまみれたゴッド・ファーザー 〜ゼア・ウィル・ビー・ブラッド〜

ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』をみました。19世紀の終わり、金を求めてたった一人で深い穴の底でつるはしをふるい、硬い岩を掘り進む男の映像から映画は始まる。その穴からはやがて石油が出て、櫓が組まれる。石…

クローバーフィールド

『クローバーフィールド』みました。得体の知れない敵が突然攻撃をしかけてきて、自分たちの住む町が破壊され、仲間たちが死んでいく。軍隊もこの未知の敵にはまったく歯が立たない。こちらは一方的に殺されるばかりで、主人公たちはただただ逃げまどう……そ…

女性の欲望の大きさに圧倒されるの巻 〜桐野夏生『OUT』〜

桐野夏生『OUT』読みました。すごく面白かった。一気に読んだ。あらすじ !!!完全ネタばれ注意!!! 荒涼とした東京の郊外にある弁当工場。そこで働く雅子、ヨシエ、邦子、弥生。それぞれに重い家庭の事情を抱えている彼女たちが、弥生が衝動的に殺した夫…

軍歌からゴーゴリへ 〜挟み撃ち〜

後藤明生の小説『挟み撃ち』読みました。小説家であるらしい「わたし」は、ある日とつぜん早起きをして、遠い昔にいつのまにか行方不明となってしまった外套を探し求める。九州筑前の田舎町から出てきて受験に失敗し、浪人をしながら初めて下宿をした蕨。蕨…

血の池地獄 〜宇宙戦争〜

スピルバーグの『宇宙戦争』みました。とてもよかった。期待してなかっただけ余計によかった。スピルバーグのSFだっていうから『E.T.』みたいな、あるいは『A.I.』みたいなファンタジックなSFを予想してたら、とんでもなかったです。いや、さすがに『E.T.』…

新しさと保守 〜ノーカントリー〜

2007年、コーエン兄弟監督・製作の『ノーカントリー』を観ました。!!!ネタばれ注意!!!麻薬の取引がこじれたあとの現場にたまたま通りかかり、そこから大金の入ったバッグを持ち帰ったモスは、止めときゃあいいのに死にかけている男に水を飲ませてやる…

いなか、の、じけん(中国編) 〜中国低層訪談録〜

『中国低層訪談録』という本がすごいらしいので、書評から孫引きします。http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/bookreview/42/index.html この本は、詩人である著者の廖亦武が中国の「どん底の世界」に入り込み、インタビューをした内容をまとめたもの。日本で「…

対談形式と政治 〜シネマの記憶喪失〜

『シネマの記憶喪失』読みました。『文學界』に2005年から2006年にかけて連載された、阿部和重と中原昌也による対談形式の映画批評です。 なんだかね……。こういう映画批評って、いったい誰のためにやってるんだろう?と思った。 中原昌也は「シネフ…

ドニー・ダーコ 二回目

『ドニー・ダーコ』を再びみました。今度は英語の字幕で。やっぱりよかった。私の好きなシーン、その1:周りにいる人の胸から『ターミネーター2』の水銀男のようなものがひょろひょろ伸びていくのが突然見えてくてしまうシーン。自分の胸からもその液体の…