現実ってホントにみにくくてつらくてイヤだわ 〜アンボス・ムンドス〜

桐野夏生『アンボス・ムンドス』読みました。

短編集。スティーブン・キングばりのホラーあるいはサイコ・サスペンス。憎しみ、裏切り、幻滅などの負の感情に焦点を当てた物語たち。辛い現実を想像で乗り越えようとする人間が現実に裏切られるショック。『毒童』など、ちょびっとユーモラスなところもあって面白い。

!!!ネタばれ注意!!!

『植林』
その外観のために誰にも相手にされないと信じ込んでいる真希。家でも兄夫婦に邪魔者扱いされていると思っている。バイト先でも同僚の女性たちには嫉妬ばかり。大阪にいたころには太ってもいなくて友達もいた。父の都合で東京へ出て来てから自分は暗くなったと思っている。
その大阪にいたころ、自分のために服を作ってくれた女が、実はグリコ・森永事件の犯人だったことを知る。そのことが真希に自身を与える。
だが、昔自分を苛めていた小学校の同級生の男に会い、それがきっかけで、自分は大阪にいたときにもやっぱり苛められていたこと、服を作ってくれた女も私が嫌いだったから犯罪に巻き込んだのだということに思い至る。
真希の暗い感情は、コンビニを経営する家族の男の子にそのはけ口を見いだす。自分を苛めた同級生が自分にしたように、真希はその男の子に心の傷を「植林」する。

『ルビー』
ホームレスの登喜夫。おなじ公園の段ボールハウスでくらす男たち。みなそれぞれに自分の矜持としているものがある。そこへルビーとあだ名されることになる若い女がやってくる。彼女は誰とでもセックスをし、登喜夫も彼女と寝るが、その後、二人で逃げる約束をして、彼女に裏切られる。

『怪物たちの夜会』
妻と子供のいる田口と9年間も不倫関係にある咲子。田口との関係がうまくいかなくなり、咲子は田口の妻に電話をかけ、さらには田口の家に押しかける。家族全員に家を追い出された咲子は、熱海に友人が建てたばかりの金のかかった別荘で自殺する。

『愛ランド』
出版社で働く三人の女が上海へ旅行する。そこでそれぞれのセックスの体験を話す。初めての相手が父親だった菜穂子。誰とでも寝るが今になって自分がレズビアンであることに気づいて佳枝。ある島での奴隷体験を話す鶴子。最後に鶴子は、来年の旅行先としてその島を提案する。

『浮島の森』
赤木と北村という二人の文学者を父に持つ藍子を取り巻く人間模様。

『毒童』
寺の娘として生まれた袈裟子は母の再婚相手の義父や、掃除に明け暮れる貧乏寺での生活にうんざりしていた。母からあれが本当の父だと聞かされている作家にあこがれる日々。寺の庭ではいろんな毒草をこっそりと栽培していた。そこに現れた謎の父子。男は子供のことを、泣かせるだけで周囲の人間を殺すことができる「爆弾」だと袈裟子に紹介する……。

『アンボス・ムンドス』
かつて小学校の教師をしていた女が、ペンションで同宿した作家に自分の体験を語る。
教師は学校の教頭と不倫関係にあり、夏休みに二人でキューバへ旅行に出かけた。帰ってみると、自分が担任をしていたクラスのボス的存在だったサユリが、ほかの三人の女友だちと化石を探しに出かけた山中で事故死したことを知らされる。だが、同行のメンバーが普段サユリとあまり仲が良くない子供たちだったことに教師は不信感を抱く……。