血の池地獄 〜宇宙戦争〜

スピルバーグ『宇宙戦争』みました。

とてもよかった。期待してなかっただけ余計によかった。

スピルバーグのSFだっていうから『E.T.』みたいな、あるいは『A.I.』みたいなファンタジックなSFを予想してたら、とんでもなかったです。

いや、さすがに『E.T.』はあり得ないとしても、まあ『マイノリティ・レポート』ぐらいのスタイリッシュなSFを、正直予想してましたね。少なくとも、ファミリーみんなで楽しく観られる映画だろうと。

ぜんぜんちがいました。これってほとんどホラー。血の池地獄ですよ、実際のところ。


以下、ネタばれ注意です。

ストーリーは単純で、要するにある日突然宇宙人が磁気嵐に乗って地球に攻めてくる。鉄塔(東京タワー?)ほどある三本足の上に巨大な目が乗っかったようなやつが、足をクネクネさせながら強力な光線を出して人も建物も焼き払い破壊していく。二人の子供を抱えたレイ(トム・クルーズ)も逃げまどいます。

ひとまず前妻の両親の家があるボストンへ向かうんだけど、川を渡るフェリーの船着き場に近づいていくにつれて人が増えてくる。実はレイたちだけは車に乗っているんだけど、ほとんどの車は磁気嵐の影響で動かなくなっていて、人はみんな歩いているわけです。動く車はとても貴重なわけ。

それで、車の周りの群衆が、最初はただ乗せてくれって言いながら窓ガラスを叩いたりするだけだったのが、だんだん鞄で窓を叩いたりするやつが出てくる。それでやむなく車のスピードを上げると、赤ん坊を抱えた女の人をひきそうになって、よけようとして車は木に激突。暴徒と化した群衆は棒ややらなにやらで車の窓ガラスを全部割ってしまい、レイたちは車から引きずり降ろされる。そこでレイはやむなくもっていた拳銃を空に向けて撃って、車を取り戻そうとする。ところが別の男に銃を頭に突きつけられて、レイはやむなく銃を離し、どうにか二人の子供だけは取り返す。車は暴徒に奪われ、落とした銃もまた別の男が拾う。すぐ横の食堂に入って呆然としていると、レイの銃を拾ったさっきの男が、暴徒が奪った車の中に向けて銃をばんばん撃っている。泣き叫ぶ娘。悲惨。

そこまでの一連の過程、この「やむなく」の連続が、とてもリアルに描かれていてしびれました。

悲惨はさらに続く。レイたちはフェリーに乗るための列に並んでいる。すると、三本足が攻めてくる。群衆はパニクって、みんなフェリーに詰めかける。フェリーは出航しようとする。レイたちはそこで出会った友人の母娘二人ずれと一緒に、フェリーに潜り込もうとする。だが母親が手を離してしまったために彼女だけ取り残される。引き裂かれる親子。悲惨。

きっとこんな悲惨な出来事が、歴史上で実際に何度もあったんだろうなあ。

こうしてレイたちはどうにかフェリーに乗る。すると、せっかく苦労してのったのに、川の中から三本足が現れてフェリーをひっくり返す。レイたちは川へ飛び込むが、その上に、傾いて横になった船から車がボトボト落ちてくる。悲惨。容赦ない悲惨。

その後、いろいろあってレイと娘のレイチェルはハーランという男(ティム・ロビンス)の家の地下に隠れているが、結局宇宙人に見つかって、外に逃げる。すると地面が赤い血管の網のようなもので覆われている。宇宙人が人間の体液を吸って、それを肥料のようにまき散らしているわけです。小さな丘をこえると、その向こうは地平線まで大地が真っ赤に染まっている。地獄。血の池地獄。地獄だけれども圧巻。宇宙人にとってはそれがみずみずしい緑の大地のようなものなのだろう。


最後はあっけなく終わるが、これってぜんぜん油断はできないよね。今度はイタリアのオリンピック選手団みたいにパスタ(食料)持参で攻めてくるかもしれないし。

あと、地下室に現れた宇宙人が、人間の家族写真を眺める、自転車が何かが分からず興味に駆られてひっくり返すなど、人間っぽく愛らしい仕草を繰り返すE.T.的シーンは興ざめだと思った。宇宙人側はもっと謎に包まれていたほうが怖くていいと思う。

宇宙人は武器に負けたのではなくて、人類が数億年かけて周囲の環境と共存してきたという、その事実に負けたというオチはとてもよかったと思う。

また、レイが息子のヒロイズムや、ハーランの「勇ましく戦う」主義になびかず、とことん娘の命を救うために現実主義(これこそ、この言葉の正しい使い方だ!)に徹して生き延びたという点にも共感が持てました。