未来の見えない話 〜百万円と苦虫女〜

タナダユキ監督、蒼井優主演『百万円と苦虫女』みました。とても面白かった。蒼井優はすばらしい!

あらすじ

佐藤鈴子は短大を卒業したが就職できず、アルバイトをしながら実家で暮らしている。アルバイトの同僚の女に誘われてルーム・シェアをすることになるが、その同僚は一方的に彼氏も一緒にすむことにしてしまい、しかも引越し直後に彼氏と別れ、鈴子は見知らぬ男と二人で住むことになる。その男は無愛想で、鈴子が拾ってきた猫を勝手に捨ててしまう。怒った鈴子はその男の持ち物をすべて処分し、器物損壊で刑務所に入る。
刑務所から出てくると近所にその噂がひろまる。弟は姉の「前科」のせいで有名私立中学に入れなくなると言って姉を詰る。家に居辛くなった鈴子は百万円を貯めたら出て行くと宣言する。
百万円を貯めて最初に向かった先は海辺の村。海の家で働くが、サーファーの男に声をかけられ、行きたくもないパーティーに行く羽目になる。その人間関係が面倒になり、鈴子は次の土地へ向かう。
山の中の村。喫茶店で住み込みの桃の収穫の仕事を紹介してもらう。ところが村長が勝手に鈴子を桃娘というキャンペーンガールにすることを決めてしまい、鈴子が断ると村人たちの集会が開かれ、鈴子は説明を求められる。鈴子が断り続けると、村民たちは最後には鈴子を「村人を馬鹿にしている」と詰る。雇ってくれた農家だけは理解があり、バイト料と餞別の桃をもらって鈴子は村をあとにする。
東京から特急で一時間の地方都市。鈴子はガーデニングの店でバイトを始める。同じ店の先輩の大学生の男に告白され、判同棲となる。ところが同じ店に男と同じ大学に通う女子大生がバイトとして雇われる。そのころから男は鈴子に金を借りるようになり、映画の代金なども鈴子に払わせるようになる。鈴子はある日その理由を男に尋ね、答えない男に「もうあなたといるの疲れた」と言う。
鈴子の弟は小学校でひどいいじめを受けている。あるとき弟は反撃し、相手にケガを負わせる。しかし姉を見習って逃げず、地元の中学に通うことにしたという手紙が鈴子に送られてくる。鈴子はそれを読んで泣く。
鈴子は荷物をまとめ、次の町へ引っ越していく。大学生の男は、鈴子が百万円を貯めたらまた去っていくというのを聞いて、鈴子に貯金をさせないために金を借りていたのだった。しかし男は鈴子にそのことが言えない。男は駅まで鈴子を追いかけていくが、わずかの差ですれ違う。鈴子も男が来てくれるかと期待していたが、男がいないので、「来るわけないか」と言って改札へと向かう。


一見、喜劇のようでいて、実は残酷な話。夏目漱石の『ぼっちゃん』を連想した。
どんなに目立たないよう、波風立てないよう暮らしていても、どうしてもまとわりついてくる人間関係の厭わしさ。身勝手で強引な人間のいやらしさ。悪くないのに悪いとされてしまう不条理。しかしそんな不条理の中で鈴子は特に気が狂うということもなく、世間とはそういうものであり、そこに適応できない自分が悪いのだと自分を責め、反省し、これからは「逃げずに生きていこう」と心に誓う。そこが「ぼっちゃん」とは違うところか。