アメリカ的作家の誕生 〜ガープの世界〜

ジョン・アーヴィングの『ガープの世界』読みました。とても面白くまた勉強になる小説だった。

とにかく第一章『ボストン・マーシィ』がすばらしい。読みながら笑い、泣いた。

そのあらすじ
ジェニー・ガープは裕福な家庭に生まれたが、兄たちに勧められた大学での軽薄な学生生活に嫌気がさして中退し、看護学校に入りなおして看護婦となる。いたってまじめな女性だったが、なぜか家族からも他人からも性的に浮ついた女だと誤解され、そのせいで性的な行為や対象についての嫌悪感がますます強くなっていく。
しかしジェニーは子供だけは欲しかった。ちょうどそのころ、フランス上空の戦闘で脳に損傷を受けたガープ三等軍曹(テクニカル・サージャント、T.S)が病院に運び込まれてくる。ガープは自分の名前である「ガープ」という言葉しか話すことのできない状態だった。ある日、「ガープ」のGが抜けて「アープ」になり、さらに退行が進みつつあることにジェニーは気づく。

日毎に彼は年齢をさかのぼっていくように見えた。眠るときは、唇をすぼめ、頬はなにかを吸っているような形にして、瞼をふるわせ、まさぐる拳で宙をこねるようにしていた。夢のなかでお乳を飲んでいるのだということがジェニーに分かった。

あるとき、背中をさすってやると、げっぷをした。彼女は泣いた。

ある朝、ジェニーは彼が小さな、弱々しそうな足で宙をけっているのを見た。

一日じっくり考えたあと、ジェニーは決断し、ガープの種をもらう。そしてジェニーは産まれてきた子供をT・S・ガープと名づける。


いきなりこんな章から始まるからどんなにすばらしい小説だろうと思いきや、一番よかったのは第一章だった。それから先はあまり練りこまれていないためか、小手先でひねり出した物語という印象が否めない。ただ、物語の中でガープは成人して小説家となり、小説を書くことを巡って小説は進むのだが、そのガープの書いたという小説があらすじや仄めかしだけではなく、少なくとも1.5作品分がそのまま小説内小説として埋め込まれていることは、その太っ腹なサービス精神を評価したい。

エンディングはさんざん。ガープ亡きあとにその家族や知り合いたちが寄ってたかってガープのことをほめちぎるのがとても興ざめで、正直なところ読み勧めるのが困難なほどだった。そもそも、ガープってそんなにいいやつだっけ?天才というほどの作家だっけ?この困難なラストの印象に小説全体がひっぱられて、アーヴィングというのはガープと同じでまあまあ面白いけど天才っていうほどでもない、という(読者の中で補正された)印象が逆に刷り込まれ、とても損をしているとさえ思う。全体としてはとても面白く、いろいろと触発される小説だけど、ちょっと詰めが甘いと思う。