今様の時代 〜遊びをせんとや生まれけむ〜

五味文彦著『梁塵秘抄のうたと絵』 (文春新書)読みました。

中世は「歌の時代」といっていいほどに、歌が人を動かした時代であった。和歌があり、連歌があり、今様があり、朗詠があり、和讃あり、読経あり、声明あり、念仏あり。早歌があり、宴曲があり、謡曲賀あり、といった具合である。

今様とは中世に歌われた歌の一種である。その今様を集めた『梁塵秘抄』は後白河法皇によって編纂された。そう、源頼朝に「日本国第一の大天狗」と呼ばれたあの人物である。

ちなみに後白河院の孫である後鳥羽上皇は、あの『新古今和歌集』を編んだ人である。この人が歌集の撰集に注いだ情熱は常軌を逸していたらしい。承久の乱隠岐に流された後も、編纂の作業は続けられたという。

後白河院が今様に注いだ情熱も同様だった。Wikipediaの「後白河天皇」の項から孫引きすると、

十歳余りの時から今様を愛好して、稽古を怠けることはなかった。昼は一日中歌い暮らし、夜は一晩中歌い明かした。声が出なくなったことは三回あり、その内二回は喉が腫れて湯や水を通すのもつらいほどだった。待賢門院が亡くなって五十日を過ぎた頃、崇徳院が同じ御所に住むように仰せられた。あまりに近くで遠慮もあったが、今様が好きでたまらなかったので前と同じように毎夜歌った。鳥羽殿にいた頃は五十日ほど歌い明かし、東三条殿では船に乗って人を集めて四十日余り、日の出まで毎夜音楽の遊びをした

現代におきかえると、今様はいったい何にあたるのでしょうね……

そんな今様を、『年中行事絵巻』『石山寺縁起』『西行物語絵巻』『法然上人絵伝』『春日権現験記絵』『松崎天神縁起』などの絵巻に描かれた場面を参照しながらこの本は紐解いていく。

では、その今様とはぶっちゃけどんなものなのか。

遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん 遊ぶ子供の声聞けば 我が身さへこそゆるがるれ

これは『梁塵秘抄』の中でもっとも有名な歌。遊女の境遇を謡ったと見る解釈もあるが、この本の著者の五味教授の見方は、子供の遊ぶ声に心を揺さぶられた聖(僧)を謡ったんじゃないかと言うもの。実際、このほかにも子供の遊びを謡った今様はいくつかあり、どれも味わい深い。

舞ゑ舞ゑ蝸牛(かたつぶり) 舞はぬものならば 馬の子や牛の子に蹴(く)ゑさせてん 踏み破らせてん 真に愛(うつく)しく舞うたらば 華の園まで遊ばせん

居(い)よ居よ蜻蛉(とんぼう)よ 堅塩(かたしお)参らんさて居たれ 動かで 簾篠(すだれしの)の先に馬の尾より合わせて 掻付(かいつ)けて 童冠者輩(わらわかじゃばら)に繰らせて遊ばせん

どちらの歌にも、子供が生き物と遊ぶときのあの残酷さ、命をぞんざいに扱う感じが出ていて面白い。

つづく