今様の時代 〜仏は常にいませども〜
五味文彦著『梁塵秘抄のうたと絵』 (文春新書)のつづきです。
仏は常にいませども 現ならぬぞあはれなる 人の音せぬ暁に ほのかに夢に見え給ふ
これは『梁塵秘抄』を代表する歌の一つ。映画『桜の森の満開の下』の中で、山賊に切り取らせた人間の首(それも何人分もゴロゴロと)を使って人形遊びに興じる都の女(岩下志麻)が謡っていた歌はこれではないだろうか。
今様はまたいろいろな場面で歌われた。
像法転じては 薬師の誓ひぞ頼もしき 一度(ひとたび)御名(みな)を聞く人は 万(よろず)の病(やまい)無しとぞいふ
国宝第一号の弥勒菩薩半跏像で有名な太秦の広隆寺には多くの人々が訪れて、上のような今様が捧げられた。この歌はまた後白河院が病の人を見舞ったときに謡ったことが知られている。
千早振(ちはやふ)る神 神に坐(ましま)すものならば あはれと思(おぼ)しめせ 神も昔は人ぞかし
この歌は後白河が賀茂社に参って出家の暇を告げたときに謡われた。
「神様だって、昔は人間だったじゃあないですか。でしょ?そうでしょ?だったらそうかたいこと言わずに助けてくださいよ〜」ってな感じでしょうか。
つづく