今様の時代 〜常に恋するは〜
五味文彦著『梁塵秘抄のうたと絵』 (文春新書)のつづきです。
今様は王や貴族に独占されていたものではなかった。それは庶民の生活にも密着したものだった。今様はもともと「遊女や京童らによって謡われ流行したものであって民間に流布していた歌謡である」。
後白河は『梁塵秘抄口伝集』の中で語っている。
上達部・殿上人はいはず、京の男女、所々のはしたもの、雑仕、江口、神崎のあそび、国々の傀儡子(くぐつ)、上手はいはず、今様を謡ふ者の聞き及び、我が付けて謡はぬ者は少なくやあらむ
「江口、神崎のあそび」とは遊女のこと。貴賤を問わずいろんな人から今様を学んだらしい。
例えば梁塵秘抄の中には恋や遊女に関する歌もある。
常に恋するは 空には織女流星(たなばたよばいぼし) 野辺には山鳥 秋は鹿 流れの君達(きんだち) 冬は鴛(おし)
「流れの君達」とは流れの遊女のこと。
君が愛せし綾藺笠(あやいがさ) 落ちにけり落ちにけり 賀茂河に河中(かわなか)に それを求めむと尋(たず)ぬとせし程に 明けにけり明けにけり さらさらさやけの秋の夜は
この歌は「男女の語らいの歌であり、賀茂川に落ちた綾藺笠を探そうとした秋の一夜を詠んでいる」とのこと。
若宮のことなどにも触れようと思ったんだけど、ちょっと説明が複雑になりそうなので興味のある方はぜひこの本を読んでみてください。読んでいるあいだ、しばし平安の昔にタイムトリップできることうけあいです。