芸能者は今も昔も河原者 〜河原者ノススメ〜

篠田正浩著『河原者ノススメ』読みました。

興奮しつつ読みました。

今まで興味を持ちつつもいい加減にしか把握してなかった日本の芸能にまつわるいろいろなトピックが、この本によって互いに結びつき合わされたような気がしました。

この本では中世から近世にかけて、日本における芸能と河原の関係を中心に、被差別民、巫女、梁塵秘抄、傀儡子(クグツ)、空也上人、瞽女(ゴゼ)、能、歌舞伎などについて論じています。

念のため書いておくと、篠田正浩は映画監督で妻は女優の岩下志麻。監督した作品は『はなれ瞽女おりん』、『少年時代』など多数。

以下、印象深かった箇所の引用。

一九六〇年代、テレビの仕事で河原崎しづ江と私たち夫婦が大阪に滞在していた時、長十郎の贔屓筋の紹介により桂離宮を飛び込みで見学できるという伝言を受けた。胸を躍らせて出かけたが、受付の老婦人は記帳した姓名と肩書きを見るや「河原もんはいかん」と言って、しづ江と志麻の入場を拒絶した。

『新猿楽記』で興味をひくのは芸能者の観察だけではない。大道芸を見物する人々の中で西の京に住む右衛門尉を名乗る家族の人物像に大半の筆を割いているのである。
(中略)
娘たちの夫、愛人らの職業がまた凄い。長女の夫は世に知られた博徒、次女の君は弓馬の誉れも高い武者、三女の彼は地方荘園の農業下請けで羽振りがよく、四女は巫女で、その卜占のみごとさと上手な歌舞音曲に群がるファンからの収入が莫大である。六女の夫は高名な相撲取りで八十町の免田を下賜されている。その他、飛騨出身の大工、医師、陰陽師、巨大な性器の持ち主や、侍従、宰相、頭中将らの上流階級の貴族を愛人に持つ十二女、夜になると辻君=街娼で稼ぐ美貌の十六女など、まるで仮装行列の華やかさである。
息子たちも負けてはいない。能書家、修験僧、天才的な細工・木工の職人、地方官僚、天台宗の学生、絵師、仏師、末っ子の九郎は美少年の楽人で童貞がいつ破られるのか心配だという。